【BL感想】『is in you(一穂ミチ著)』を読んで
一穂ミチ先生の『is in you [新聞社シリーズ] (幻冬舎ルチル文庫)』を読みました。
直接的なネタバレはありませんが、展開を匂わせる部分もあるので未読の方は本編を読むことを推奨。
少女漫画のような美しさと、地に潜むリアリティ
少女漫画のようなどきどき感と、世界すべてを浄化したような美しさが味わえる作品です。
言葉の選び方、設定、舞台、とにかく何もかもが美しくて、もはや欠点(汚れ的な意味)を見つける方がむずかしいくらい。
著者の作品自体、もともとそういう(現実世界を美しく描いている)傾向がありますが、この『is in you』は他の作品と比べても二割増しくらい美化されているように思います。
メインキャラクター2人にしても、いかにも学校や社会を闊歩しているような人たちです。
一方はイケメン、スポーツマン、モテモテとーーどこの王子様かよというくらい完璧男ですし、もう一方(主人公)に関しても、目立ちはしないけれど、決して下層にいるタイプではなく、斜め上あたりを一人でひょうひょうと飛んでいるような人間。
両者とも、ぱっと見ではわかりやすい欠点みたいなものは見えませんし、陰と陽でいえば完全に陽でしょう。
言葉がいい
それから言葉の選び方が一穂ミチ先生の作品のなかでもとくにが好きで、かなり何気ないシーンでも、はっとさせられたり、しっくりとした表現が返ってきます。文章に関してほとんど興味関心のなかった私でも、一文一文追いかけてしまうほど。
前半はすべてが美しい
全体を通してシンデレラ・ストーリーのようなキラキラ感がありますが、とくに前半部分はもう本当に汚いところが一切ないといってもいいくらい、この世のすべてを浄化させたように美しいです。
ですが注目するのは、後半部分。
ただの少女漫画で終わらないのがこの作品のすごいところです。
完全に真っ白な前半部分に対し、後半は少し陰りが見えるのですが、あくまでこの美しい世界を壊さない程度にさらっと描かれていて、なのに強烈なインパクトを残しています。
『こういうの』を集めた感じ
それから、何度も読んでいると、実に不思議な作品だなあと思います。
なぜかというと、設定とか、キャラクターとか、一つ一つを見る変わっているんですよね。
統一感がない……というのは良い言い方じゃないですが、たくさんの要素をひたすらつぎ足してつぎ足して作られた感じというか。(あくまでイメージです)
連載漫画とか読んでいるときの感覚に近いかもしれません。「こういうの入れたら面白いよね」という要素をたくさん詰め込んでるような。
削ぎ落として見ると必然性はなさそうなのに、エンターテインメントとして見ると、盛り上げるのに必要不可欠な装飾品になっていて。
部分部分を見ると不思議なのに、全体を通して読んでいるときはぜんぜん違和感がなくて、キャラクター、設定、世界観、すべてにとんでもなく引き込まれていく。
うつくしい場面、どきどきする瞬間、萌える設定やキャラクターすべてを詰め込んで作られた作品、というのが一番しっくりくる気がします。
『meet, again. (ディアプラス文庫)』を読んだときも、これに近い感覚がありましたね。
主人公が可愛い
あと、これは完全に私の好みですが、主人公がとにかく可愛い。
やることなすこと、口から出る言葉、とにかく可愛い。『 ペーパー・バック 1 [新聞社シリーズ《番外編》] (幻冬舎ルチル文庫)』はさらに可愛さが増していてどうしたものかと思った。
だけど可愛いだけじゃなく、きちんと自分の筋を通すところもあって、男前。
主人公は可愛いくて男前。
相手は完璧超人の王子様。
このキラキラした世界をひっそり見守っていきたい。そして、これが永遠に続いてほしい、という気にさせます。
数年前は真逆だった
でも一時期というか、少し前までは、真逆だったんですよね。
昔は残酷なまでにリアルな男同士の恋愛を描くようなBLにハマっていて、キラキラしすぎている作品はどうにも読めなかった。もちろん、今でも好きだけど。
ただ最近は受け止める体力、精神力がなくなってきたからか、「もうとにかく幸せになって!」と思うようになりました。
ドラマって経済が上向きなときほど、辛い作品が流行って、不況なときほど底抜けに明るい作品が流行るってどこかで聞いた気がしますが、完全にこれかもと思ったり。体力、心の余裕、社会の切迫感みたいなものが大いに影響している。
長さ的にも、小説は一巻で終わるもの、漫画は3巻以内のものを選ぶようになってきた。