サバ屋のblog

BL小説の感想とか日記みたいなもの

【BL感想】『meet,again.』(一穂ミチ著)を読んで

一穂ミチ先生の『meet, again. (ディアプラス文庫)』を読んだ感想を書いていきます。

 

 

ふしぎな世界観

SFやファンタジーのようでもあり、ホラーやミステリのような雰囲気もある。

一言で表すなら、現実と架空のあいだをゆらゆら揺られているような物語でした。

「そんなバカな」というような設定も、どこかリアリティを感じるとともに、どこかファンタジック。

一つ一つきちんと整理してみるとバラバラに見えるのに、まったく違和感ない音を奏でていて、さまざまなジャンルからこの世界に合うものだけを抽出して組み立てたような作品です。

 

ラストまで続く緊張感

そして、ラストまでいつ裏切られるか刺されるかのような、妙に張り詰めた緊張があります。 

そのせいか、2話収録作品って1話を読み終えたあと、再度気持ちを整えないと読めないことが多いのですが、これは通して読んでしまいました。

 

そうさせた犯人はまちがいなく、「栫」というキャラクターでしょう。

 

栫というキャラクターが出す存在感と魅力

この作品は、『雪よ林檎の香のごとく (ディアプラス文庫)』の番外編というかスピンオフ作品で、

その作品に登場したというキャラクターをメインに話が進行します。

 

じつはこのキャラクター、個人的には『好感度』という指標だけでいえば、あまり好きではない。(きらいではない)

たぶん私だけではなくて、『雪よ林檎』の読者のほとんどがそうだと思います。

彼は、一穂ミチ先生の他の作品を読み比べたなかでも、一際クセのあるキャラクターですし、ストレートに好感を持つ人は少ないでしょう。

 

でも、彼の存在そのものが物語に緊張感を与えていて、言動一つ一つを読ませてくる。

しずかな空間に、研ぎ澄まされたものがすとんすとんと落ちてくるような言葉。

ときにはあめ玉だったり、ときには刃物のようだったり。

本心だったり、偽りだったり。

はらはらすると同時に、彼の言葉や行動の一つ一つを見落さないよう必死に追ってしまう。

とにかく気を抜けない。

 

そして人間であり、どこか生身の人間じゃないようなキャラクターが、ファンタジーを見ているのか、現実世界の物語なのか、わからなくさせる。

 

だから、キャラクターへの好感度は高くないのに、作品はすごく面白いんです。

ああこれは、『ナイトガーデン 完全版 (ディアプラス文庫)』を読んだときと似た感覚だな、と思いました。

 

sabaya.hatenadiary.com

 

著者が意図的にそうしたのか、キャラクターが偶然に奏でた物語なのか、それはわかりませんが、とにかくすばらしい作品でした。

 

できればスピンオフのような他の作品と共有した世界観ではなく、完全に独立した物語として読みたかったなあ。

 

 

【BL感想】ムーンライトマイルを読んで

一穂ミチ先生の『ムーンライトマイル (ディアプラス文庫)』を読んだ感想を書いていきたいと思います。

 

素朴でかわいい2人

この作品の良いところは、素朴さ。

壮大で遠く離れたものではなく、身近な親しみやすさのようなものを味わえるところです。

大きな夢を追い求めるのではなく、そばにある小さな幸せを味わっていたり、遠くのキレイなものより、身近なものを選んだり。

キャラクターの設定も、かなりのイケメンだけど手の届かないレベルの完全さではなかったり。

良い意味で、普通の人たち。

ああ、町のどこかにこんなカップルがひっそり幸せに暮らしていたらいいよね、と思うような。

 

一文一文が美しい

2人の出会い方が面白かったです。

コメディというかだらしがないというか、アホっぽいのです。

でも後半にゆくに連れて、だんだんと美しさが増していくためか、まったく下品に感じられない。

「星」という題材なのもありますが、一文一文が美しいです。

片方が片方を好きになったあとの態度の変化、相手のちょっとした言葉や行動を見逃さず反応する描写が細かく愛おしい。

 

【BL感想】『青を抱く』を読むか迷っている人へ

一穂ミチ先生の『青を抱く (フルール文庫 ブルーライン)』を読みました。

 

アマゾンのレビューはそこまでよくないようだけど、好き

この作品は買おうかどうか迷った作品です。

なぜかというと、他の作品に比べるとアマゾンのレビューや評価はそこまで……というかんじで。辛辣な意見もあったり。 

そんな中で迷いつつ買ってみたのですが、実際に読んでみると、低評価をする人の気持ちもわからないでもない。

ですが個人的には、そんな部分も気にならないくらい、はるかに楽しめた作品でした。

私なら5をつけるかと。

 

なぜ楽しめたか

なぜ楽しめたのかというと、理由は3つあります。

  1. テンポ・リズムが好み
  2. 描写が美しい
  3. 主人公がとにかく可愛い

 

①テンポが好み 

まずテンポというか、テンションというか、リズムが好みだということ。

「テンポが好み」とは何かというと、一穂ミチ先生の作品は、ざっくり分けると2種類ありますよね。 

『イエスかノーか半分か』『ひつじの鍵』のようなテンポが速く、テンション高めのコメディ作品。

『さみしさのレシピ』『アロー』のような、ゆったりとしたテンポと、繊細かつ美しい人物や背景の描写があるドラマ作品。

 

前者だろうが後者だろうが楽しく読めますが、より好みなのは後者のほうです。

良く言えば繊細な、悪く言えばちょいと胃にくるような重めの作品が好き。

 

そしてこの作品は、後者です。

ゆっくり、繊細、少し重め。

ぽつぽつとしたセリフの置き方、ゆっくりで急がない風景やキャラクターの丁寧な描写が本当に心地いいです。

「重いのは勘弁して」という人もいるのかもしれませんが、個人的にはたまりませんでした。

 

②水の描写が美しい

2つ目は描写。

この作品では、タイトルにもある『青』

……というか、『水』に関する描写というか表現がたくさん散りばめられています。

といっても、この作品に限らず一穂先生の作品には、自然を最大限に美しく描く文章があります。

 

でもなぜこの作品を勧めるかというと、他作品に比べてもとくに自然の描写が多いほうだと思うからです。

ちゃんと調べたわけではないので、感覚的なものですが。

『ふったらどしゃぶり』とか『キス』とか、一穂先生の中でもふとした自然の描写が好きな人には、読んで損はないかと思います。

 

③主人公がとにかく可愛い

3つ目、これはさらに個人的な好みですが、主人公がとにかく可愛い。

言葉も、行動も、考え方も、可愛い。

存在しているだけで可愛い。

多くを語らないのに、心を許した相手にはどんどんなついて、言うことを聞いてしまうところとか。けれど、ときどき素直になれずに突っぱねてしまうところとか。

あまりに好みなものだから、行動を観察しているだけでも飽きなかったです。

 

かなり近いのは『is in you』『ステノグラフィカ 』の主人公です。

この系統の子が好きなんだなと思う。

「あざとさ」だけでいえば超えてるんじゃないだろうか。

自分の基準からすると、たぶん一番あざとい。(褒め言葉)

 

読みましょ

まとめると、読みましょ、ってことで。

とはいえ、まったく一穂先生の作品を読んだことのない人には多分すすめないとは思います。

『イエスかノーか半分か』、もしくは『シュガーギルド』あたりをプレゼントするかもしれません。

 

ただ、すでにファンで、何冊か読んだことある人なら、ぜひとも。

とくに『is in you』から始まる新聞社シリーズや、『やさしさのレシピ』のような少し重めの作品が好きな人、

『おとぎ話のゆくえ』『アロー』のような細かな人間描写、

『ふったらどしゃぶり』のような美しい水の表現が好きな人は読んで損はないでしょう。

 

 

 

 

【BL感想】『さみしさのレシピ』を読んで

一穂ミチ先生の『さみしさのレシピ (ディアプラス文庫)』を読みました。

 

静かで心地いい

他の作品に比べると、静かで少し重たい作品です。

重たい、とはいっても、かなり淡々と書かれているのでそこまで気張らずに読めました。

無理なテンションの上下もなく、大げさに描かれていないところに、リアリティを感じます。

 

そして、このテンポがひじょうに心地いい。

大きな事件で右往左往するのではなく、とりとめもないセリフのやりとりで、ふたりの心が近づいていくさまを眺めるかんじ。

ゆっくりで、繊細で、ムダな雑音がないかんじ。

なので冒頭始まった瞬間から、「ああ、好きなやつだ」と楽しんで読むことができました。

青を抱く (フルール文庫 ブルーライン)』『アロー (幻冬舎ルチル文庫)』あたりのテンポや重さが好きな人は合うと思います。

 

そして、ありきたりな言葉ですが、キャラクターも魅力的です。

なんというか、とても良い味出してる不思議な人。

クールにつんけんしてるかと思えば、やさしくて寂しがりやでこどもっぽくて。

 

【BL感想】『アンティミテ』を読んで

一穂ミチ先生の『ひつじの鍵』のスピンオフ作品『アンティミテ ひつじの鍵 (ディアプラス文庫)』を読みました。

 

ほとんど別もの

面白すぎです。

『ひつじの鍵』の続編だと思って読んだら、ぜんぜん違いました。

前作の舞台から10年以上経過している設定の上、色もちょっと違って、ほとんど別ものといってもいいです。

主人公の和楽くんも、『ひつじの鍵』での印象とはまったく違います(これについては後で書きます)し、前作のキャラクターもほんの少ししか出ません。

本当に別もの。

 

もちろん、前作と似ている部分はあります。

全体的にまあまあ明るめで、コメディ要素があるところとか。

しかし、軽くはない。

複雑な家庭事情やら、個人的な悩みやら、とかいう類の重みではなく、主人公の性格と、年齢による説得力が加わったからこその重厚感というか。

『ひつじの鍵』がポテトチップスだとすると、『アンティミテ』はポテトチップチョコレートです。

その濃厚さが、個人的には変化球レベルでした。

『ひつじの鍵』を読んだときも「この作品好き」と思ったけど、この作品も別ベクトルで面白い。

『ひつじの鍵』を読んでなくても、普通に面白く読めるレベル。

 

和楽が『ひつじの鍵』のときより150倍良い

そして、変化球はもう1つあります。

この作品は『ひつじの鍵』出でてきたキャラクター、和楽が主人公です。

 

で、その和楽くんですが、『ひつじの鍵』(の和楽)より50倍くらい良いんです。

いや、この際100倍にしときましょうか。

(もちろん私の好みは大いに入っています。)

正直なところ、『ひつじの鍵』での和楽くんは、そこまで大きな印象は残っていませんでした。お金持ちで、有名な画家の孫で、とにかく良い子……くらい。ポジション的に仕方なかったのもあるでしょう。

ですが、この『アンティミテ』で和楽くんを好きになる人は多いと思います。

『アンティミテ』では仕事ができて、金持ち特有の品の良さがあって、かっこいい。

ハイスペック男子です。

 

まあそういったキラキラ要素は置いといたとしても、(こっちの和楽くんのほうが)感情移入しやすい人は多いんじゃないかと思います。

1つも欠点がないほどハイスペック男子なわりに、ぜんぜん鼻につかなくて、人間味があるので。