【BL感想】『アロー(一穂ミチ著)』を読んで
一穂ミチ先生の『アロー (幻冬舎ルチル文庫)』を読みました。
なんだこれ。隠れた名作?
アマゾンでレビューが全然ついてなかったのであまり期待せず読んでみたのですが、めちゃくちゃ良い作品。
好きですね、というか大好きですね。
恋愛感情が芽生えるまでの丁寧さ
一穂先生の他の作品と比較しても、とにかくじっくり丁寧に描かれている作品です。
『おとぎ話のゆくえ (幻冬舎ルチル文庫)』もじっくり系だと思いましたが、これはそれ以上。
全体的にゆったりとした時間が流れていて、一つ一つの何気ない会話が物語を繋いでいます。
だからといって、単調ではなく、何気ない会話なのに読んでしまいますし、2人が惹かれ合っていく姿を追いかけたくなります。
ゆったりとした時間の流れがむしろ心地よくて、この世界の中に浸っていたいと、あえていつもより時間をかけて読んでしまいました。
マイナスの2人
この作品を読む中でもう一つ、好きだな、と思ったところがあります。
それは、
- サラリーマンくささがないところ
- 社会的地位が高くないところ
- 社会から外れているところ
です。
いや、3つもあるか。
BL作品に登場するキャラクターって、たいてい大企業に務めるようなハイスペックな人間だったり、そこまではないけど普通にかっこよく働いている人だったりしますよね。
片方が底辺でも、片方はハイスペックだったり。
でも、この作品のキャラクターにはそういう職業的な装飾みたいなものがありません。
というより、これが少女漫画だと考えると、むしろマイナスの域。
変人の集まりなんですよ。
メイン2人はとくに変人だし、脇役のキャラクターたちも(ある一人を除いて)、なんだか普通に描かれるような大人って感じがない。
いわゆる社会人ぽさがないというか、はっきりいってひっくり返ってもサラリーマンなんてできなさそうな人たち。
それに、上昇志向やちゃんと生きようという気力さえあまりない。脱力系の人。
つまり、ほんとうにキラキラしてない。でも、たしかに生きている。
そして、たしかにこういう人たちはいる。
夜の街ってこういう感じ
そういえば、夜の街の住人ってこんな感じだなって思いました。(全員ではない)
働けないレベルの社会不適合者ではないのだけど、昼間に生きる人間とは確実に種類が違う。
異端者でも、ちゃんとしてない人でも、ちょっと足りない人でも、なんとなく支え合って生きている世界。
昼の住人から見ると、『社会の底辺』や『常識のない変わり者』に見えるけれど、ただルールが違うだけで。
彼らは彼らで、夜に適応している人間たちなんじゃないかと思う。そこでしか生きられない人。
まあそんなことをつらつら考えていたわけです。
王子様じゃなくても、なにもなくても良い
……なんでそんなことが「良いな」と思ったのかというと、
最近BL作品を読むなかで、少女漫画のような残酷さを考えることが多くなったからです。
いわゆる『王子様』に違和感を覚えるようになったというか。
先ほども書いたように、BLって少女漫画と同じくそれなりにちゃんとしたキャラクターが登場します。
あと、最初は何してるかわからない人だったけど、実は社長や医者……または王族だった。(笑)
……みたいなキャラクターや、
社長、医者レベルは置いておいたとしても、普通にちゃんと生きている人ばかり。
そういう作品も好きだし、読んでいるときは楽しく読めるし、「イケメンで真っ当に生きていてかっこいいな」と思います。
でもそれと同時にどこか、それはどうなんだろう、と思う自分もいまして。
自分たち読者側が、世にある少女漫画と同じように、ある一定ラインを超えた、ちゃんとしたキャラクターじゃないと興味がわかないのか、と。
(BLを読むこと自体が現実逃避なので、そんなことを考えるのが不毛なのはわかる。)
なんか、一部のキレイに見えるところだけをすくい取って、他はばっさり蓋をしているんじゃないかと。
自分でも、なんでそこにわざわざ引っかかるのか、よくわからないのですが。
だからこそ、この作品を面白く読めた自分がいて、そのモヤモヤしていた心の拠り所が見つかった気がしたんです。
べつにそこまでキラキラしてなくても、「興味ない」と投げることもなく、面白く読めるんだな、と。
この人たちの幸せを願えるんだな、と。
小さなことかもしれませんが、とても嬉しかったのです。